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著作権 非アイマス : 条約と国内法
 著作権ネタです。
 前回のエントリに、当ブログによくいらしてくださる方から、「国際条約が結ばれても、実際に国内で罰を与えるためには国会で国内法を制定する必要があるのではないか」という趣旨のコメントをいただいたので、まとめてみます。
 条約にはあまり詳しくありませんが、分かる範囲で書きますね。
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 各国の法秩序における条約の扱い方には二種類あって、英国型の「国内法として整備されなければ国民に適用できない」タイプと、米国型の「条約を直接国民に適用できる」タイプとに分かれます。我が国は後者なので、条約はそのまま国内法として扱われます。優先順位は憲法>条約>法律>条例の順です。そのため条約で権利が保護されていることを根拠にすれば、国内法が制定されていない状態でも損害賠償等を求めることは可能ですし、判例もそれで定着しています。扱いとしては不法行為(民法709条)です。法律で守られた他人の権利を侵害した行為、ということです。あとは裁判官が賠償金の金額を決めれば、判決が完成します。私法上の損害賠償は、刑法のように「この権利を侵害したら100万円以上1000万円以下の損害賠償を払え」とあらかじめ法で金額を定める必要がないので、国内法の実装を待たずとも、条約を直接、国内法として適用できるわけです。
 これを「条約の直接適用」などと言いますが、「条約が各国国民への直接適用を明らかに予定していない場合」などには、直接適用ができません。また、社会保障など高度な権利救済を必要とするのに、条約の条文が曖昧すぎる場合なども同様です。

 刑法については、まず各国の刑罰に対する考え方の違いが大きすぎるので、条約に懲役刑などの刑事罰を定めるのは無理でしょう。理論的には可能ですが、条約のような改正が難しい法令で定めるメリットはあまりありません。なので条約が直接適用されて懲役刑などを食らう、といったことはほぼありえません。
 たとえば拷問等禁止条約第4条1項を見ると、「締約国は、拷問に当たるすべての行為を自国の刑法上の犯罪とすることを確保する」と書いてあります。これは「拷問した奴には刑事罰を与えるような国内法を作りなさいよ」という主旨であって、この条文を基に裁判官が「う?ん、拷問の量刑っていくらくらいだろ。20年くらいかな? よし、懲役20年!」という判決を出すのは、罪刑法定主義上不可能です。明らかに直接適用を想定していない条文であるということも、不可能に輪を掛けます。
 しかし、このように条約によって国内法の整備を要請されながら、これを長期間に渡って放置するようなことがあると、憲法98条2項「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」に違反する可能性があります。そうすると立法不作為というのが成り立ちます。これは立法府が憲法に違反して立法行為を怠る場合に、裁判所が国家賠償などを認めるものです。 要するに「国会が条約に沿った国内法をさっさと作らないのは違法だから、損害賠償を払え」という判決が出てしまうのです。だから役所や政治家は、急いで国内法を作るんですね。
 あと、条約が国会で成立する「法律」よりも優先する以上、条約に反した法律を作っても、効力がありません。無効です。憲法に違反した法律や、法律に違反した条例が無効なのと同じです。
 また、条約は勝手に離脱することができません。条約に定められた手続きを踏むか、全当事国の承認を得る必要があります。一方的に破棄していい場合は限定されています。なので危険な条約をうかつに結んでしまうことは、とても危険なんですね。後で「抜けたい」と思っても、抜けるのに非常に苦労するわけです。

 また、フランスなどで既に成立した「スリーストライク制」なんかも、条約で先進国に押し付けられるのではないかと言われています。これは違法ダウンロードを繰り返す者が三回警告を受けてもそれをやめなかったと「行政機関が」認定したら、裁判所の許可によってそのユーザーのネット接続を一年間停止できるというものです。父親がこれを食らったら、家族全員が一年間ネット無しです。日本でもJASRACの菅原理事が「日本への導入を検討中」だそうです。
 なんでこれが問題になってるかというと、この一年間のネット切断という措置が、刑事罰ではなく、行政上の強制執行(直接強制)に分類される可能性があるからです。普通、人に懲役などの刑法9条に列挙された刑罰を課すには、刑事訴訟法などの厳格な手続きを践む必要があります。しかし、そんな面倒な手続きを経ないで、もっと簡易かつ迅速に違法ダウンロード者に制裁を加えたい、という理由から、こういう「行政上の強制執行」による対処法が生まれたのです。これなら警察が容疑者を逮捕して取り調べをしたり、検察が証拠を集めて起訴するべきかどうか考えたり、そんな面倒な手続きが一切必要ありません。行政機関が「こいつが三回警告したけど無視したから、ネットを切断してね」といって資料を送って、それを裁判官が信じたなら、ネットは一年間切断されます。裁判は開かれないので、強制執行の対象者が、行政機関の提出した証拠に対して反論を行ったり、反証を提出したりすることができません。潔白なら裁判を起こして戦えばいいじゃないかと思うでしょうが、国が刑事裁判で告訴してきたら立証責任は国にありますから、「疑わしきは罰せず」の原則から、「有罪である」と検察が証明できなければ、被告人は無罪です。しかし行政訴訟は民事訴訟なので、基本的には訴えた側(原告、つまりネット切断の対象者)に立証責任があります。場合によっては、対象者が違法ダウンロードを「していない」と証明できない限り、三回の警告を無視して違法ダウンロードを継続したことが認定されてしまうわけです。刑事罰は厳しいものなので、それを課そうと思ったら国が有罪を証明しろ、少しでも怪しかったら無罪にするぞ、という「推定無罪」が近代刑法の大原則だったわけですが、この一年間のネット切断というのはあくまで「行政上の強制執行」であり、「刑事罰ではない」ので、そんなものは守らなくてもいいというわけです。
 これは21世紀の新しい刑罰のあり方でしょう。こんな理屈が通るようでは、「刑事罰ではない」と言い張れば、大抵のことは「行政上の強制執行」で国民に強制できそうです。今までの「刑罰を課したかったら、まず国が有罪を証明しろ」から、「とりあえず刑罰は課す。無罪になりたかったらお前が訴訟を起こせ。ただし立証責任はお前にあるので、『違法ダウンロードをやってないこと』をお前が証明できなかったら、自動的に国の主張が認められる」ことになるわけです。そしてこれは「行政訴訟」であって「刑事訴訟」ではないので、国選弁護人が付きません。弁護士への報酬は自腹です。さらに国の側にいるのは、検察官ではなく弁護士です。また弁護士が儲かるわけです。
 こんな無茶苦茶な法律が、フランス人権宣言を発表した国の憲法院で合憲判決を受けるというのが信じられませんが、いずれ問題視されるのは確実です。まあ、フランスの判事が現場判断で裁判に近い厳正な審査をするなど、やり方は一杯あると思うので、是非フランスの司法関係者には頑張ってほしいところです。それにこれが条約で日本に押し付けられても、必ずしも絶望だけではありません。まずこんな実質的には刑罰以外の何物でもないものを、行政上の強制執行として認め、刑事訴訟法に従った手続きを取らなくてよいのか、憲法31条に関して司法の判断があります。違憲であれば、憲法は条約に優先するので、このような国内法の制定を義務付ける条約の条文は無効になります。
 また仮にネットの切断が「行政上の強制執行」だとすると、ネットの切断が行われる前の、警告を受けた段階で「俺はやってない!」と思うなら、仮の差止めを裁判所に申立てることが出来ます。これは裁判なしで命令が出ます。主張が認められれば、行政庁はネットの切断が出来ません。
 さらにネットが切断されてしまった後であっても、行政不服審査法、あるいは行政事件訴訟法に基づいた執行停止の申立てが出来ます。前者は行政庁、あるいはその上級行政庁に直接申立てるもので、「あんたらのミスですよ、私は違法ダウンロードなんてやってませんよ」という申立てに応じて役所がミスを認めれば、ネットの切断が止まります。また後者は、ネットの切断の取り消しを求めて訴訟を起こしている場合、裁判所が「こりゃ一回止めといたほうがいいな」と思った場合に、ネットの切断を止めてくれるものです。
 あと日本の行政訴訟(特に処分取消訴訟)において、実は立証責任は必ずしも原告になく、裁判所が個別の状況に応じて、訴えられた国側に立証責任を負わせることもあります。そのためスリーストライク制が日本に導入されても、立証責任はおそらく国側に認められ、推定有罪などという馬鹿げた事態には、そう簡単にはならないでしょう。
 こんな風に見ていくと、日本の行政法は充実しており、絶対途中で不正は見抜けそうですが、それでも日々、役所がミスを認めないまま申立てを棄却し、結局は裁判になったりしているわけです。大体ここに挙げたような権利やシステムを、一体どれくらいの人が知っているでしょうか。それぞれのシステムを利用するためには様々な条件や期限があり、それを知るためには弁護士に1万円以上お金を払わなければいけなかったりします。危険な制度自体がないに越したことはなく、違法以外の何物でもないMAD動画を「これは違法だ」「いや違法じゃない」などとネット上で騒いでいるということが、いかに幸せなことか分かるでしょう。とりあえずネットが切断されて、そこから先は裁判でなんとかしろというのは、やはり明らかに異常です。

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 以上、文が長くなりすぎたので、ポイントをまとめてみます(れぽうpへの返信コメントで書いたことの再掲です)。

 1.損害賠償などは、条約に直接基づいて請求することが可能。
 2.懲役などの刑事罰を定めることは、理論的には可能だが、現実的には不可能。
 3.刑事罰が難しいので、ネット切断などの「刑事罰でない、行政上の強制執行を課する制度」の制定を、条約で義務付けようという動きがある。
 4.ただしそのような法令は、刑事手続きが保証されない場合、違憲の疑いがある。
 5.条約で国内法の制定を義務付けられているのに、国会が長期に渡って国内法を制定しないと、憲法違反になる。

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 こんなことを考えて行くと、条約というのは恐ろしいですね。中国など民主主義的でない国の政府との約束が、民主主義的な手続きを経て国会で成立した国内法よりも強いというのは問題です。まあ、平和条約や休戦条約などを考えると、それくらいの効力がないと困るんですが・・・。
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